論文解説『長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査』

解説する論文:『長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査』

この論文でわかること

どんなことをしたの?

本論文では、長野県内で捕獲されたニホンジカについて、血抜きや内蔵等の下処理の違いが肉質に及ぼす影響を検証している。

試料は、長野県内2ヶ所の地域で捕獲されたニホンジカであった。鹿の年齢及び性別は考慮されなかった。試料は、A群:捕獲から0時間以内の血抜き処理(血抜きで残った血液の処理あり)と1時間以内の内蔵処理、B群:捕獲から0時間以内の血抜き処理(血抜きで残った血液の処理あり)と1時間以内の内蔵処理、C群:捕獲から3時間以内の血抜き処理(血抜きで残った血液の処理あり)と3時間以内の内蔵処理の3群に分類された。

各捕獲地および各処理条件の鹿肉について、物性測定、香気成分、遊離アミノ酸組成、イノシン酸カルニチンの分析が行われた。

なにがわかったの?

物性測定および香気成分分析の結果、多少の条件の違いでは肉質への影響が少ないことが示唆された。また、鹿肉の各部位について物性、遊離アミノ酸組成、イノシン酸カルニチン測定をそれぞれ行った結果、機能性ペプチドと言われるイミダペプチドアンセリンカルノシン)、機能性アミノ酸と言われるカルニチンといった鹿肉に特徴的な成分が、いずれの部位においても他の畜肉より多く含まれていることが明らかになった。

論文の具体的な内容

【物性試験】

1.下処理条件の異なる鹿肉の物性(図1)

各処理条件における鹿肉の物性を図1に示す。縦軸は破断強度測定における最大荷重を示している。各処理条件間での結果の差は認められず、むしろ、捕獲された地域による差のほうが大きく示された。しかしこれは、鹿の年齢や性別などの個体差、捕獲された地域の環境や食物による影響であることが考察されている。

論文「長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査」より引用した画像

(図1は元論文「長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査」より引用)

2.鹿肉の各部位の物性、遊離アミノ酸組成、イノシン酸およびカルニチン含有量(図2)

部位による大きな差は認められなかった。

 

「長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査」より引用画像

(図2は元論文「長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査」より引用)

【香気成分分析】

1.下処理条件の異なる鹿肉の香気成分(図3)

縦軸は測定された香気成分の検出強度を示しており、この数値が大きいほど香気成分が多いと考えることができる。ジセアチルとアセトインは発酵臭やバター臭、ヘキサナールは青臭さを呈す成分と言われており、鹿肉独特の臭いの主な成分と考えられている。

香気成分についても物性と同様に、各処理条件感での影響はみられず、捕獲地などの違いのほうが顕著であった。

 

「長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査」より引用画像

(図3は元論文「長野県産鹿肉の成分及び物性に関する分析調査」より引用)

【成分分析】

1.遊離アミノ酸組成

旨味成分としてよく知られているグルタミン酸アスパラギン酸はそれほど多くなく、むしろ甘味を呈すと言われているグリシンやアラニンのほうが比較的多く含まれていた。また、「イミダペプチド」と呼ばれるジペプチドのアンセリンカルノシンは、他の畜肉と比較しても多く含まれており、特に運動量の多いモモやロースに含まれていることが特徴的であった。

2.イノシン酸

イノシン酸についての特徴的な所見はなかった。

3.カルニチン

牛肉や豚肉と比較し、鹿肉ではどの部位でもカルニチンが多く含まれていた。

【結論】

1.かねてより言われていた血抜きや内蔵処理の条件が肉質に及ぼす影響については、物性および香気成分において、今回の結果からはあまり差はみられず、むしろ生息地や年齢、性別のほうが肉質に及ぼす影響は大きいと考えられた。

2.物性は部位によって大きな差はないものの、利用頻度の低いスネやバラは、他の部位に比べて硬い傾向にあると考えられた。

3.遊離アミノ酸については甘みを呈すとされているグリシンやアラニンのほうが比較的多く含まれていた。イミダペプチドとも呼ばれるアンセリンカルノシンが他の畜肉と比較し多く含まれており、特に運動量の多いモモやロースに含まれている傾向がみられた。

4.旨味成分のひとつであるイノシン酸については特徴的な所見は見当たらなかった。抗疲労効果があるとされているカルニチンについては、部位ごとに多少の差はあるもののまんべんなく含まれており、牛肉や豚肉と比較して多く含まれていた。

まとめ

本論文は、長野県内で捕獲されたニホンジカについて、血抜きや内蔵等の下処理の違いが肉質に及ぼす影響を検証している。また、各部位での成分等の比較もなされている。

これまで、捕獲から下処理までのスピードはお肉の美味しさに直結するものであると考えられてきた。しかし、本研究結果からは、「血抜き」や「内蔵処理」などの下処理を行うまでの速度と美味しさは、物性と香気成分の観点から関係がないことが示唆された。むしろ、それらに影響を与える因子としては、育った環境や性別、年齢などが考えられた。

本研究結果を裏付ける意味でも、今後は性別、年齢、捕獲地などについての条件付けを行った検証が必要であると考える。