論文解説『食肉由来ペプチドの生体調節機能』

解説する論文:『食肉由来ペプチドの生体調節機能』

この論文でわかること

どんなことをしたの?

本論文では、食肉タンパク質の特徴についての概説、および、食肉タンパク質が分解されて生じるペプチドの生体調節機能の解説がされています。食肉タンパク質由来ペプチドの生体調整機能に関しては、カルノシンアンセリンからなる機能性ペプチドについても述べられています。

なにがわかったの?

本論文では、カルノシンアンセリンからなる機能性ペプチドには抗酸化作用、緩衝作用、抗疲労効果があることが示唆されています。また、食肉タンパク質由来ペプチドには血中コレステロール低下作用、中性脂肪上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、抗酸化作用、カルシウム沈殿抑制作用による骨粗鬆症改善効果などがあることが示唆されています。

論文の具体的な内容

【食肉タンパク質の特徴】

畜産食品の中でも、食肉は他の食品素材と比べてタンパク質含有量が多く、タンパク質配給源として重要な働きをしている。食肉などの動物性食品由来タンパク質の摂取が不足すると、病気に対する抵抗力が落ちて感染症にかかりやすく、病気の回復力も低下することが知られている。また、タンパク質の不足は高血圧を促し、血管を弱め、脳卒中を招きやすくなるとされている。

口から摂取されたタンパク質のほとんどは、胃や腸の消化酵素で、小さなペプチドや遊離アミノ酸まで分解されて小腸から吸収される。食肉のタンパク質を構成するアミノ酸では、グルタミン酸が最も多く、続いてアスパラギン酸、リシン、ロイシンとされている。食肉のタンパク質を構成するアミノ酸の組成は生体内のそれに近いため、生体内タンパク質の生合成に効率的に利用される。

さらに、食肉タンパク質の分解物であるアミノ酸には、生体調節機能があることが近年明らかになっている。食肉タンパク質の構成アミノ酸には、骨格筋のタンパク質合成を促進し、分解を抑制する効果があるとされている。この作用は特にロイシンで大きく、筋肉の損傷予防や筋力低下の予防につながる。トリプトファンは精神の安定作用を有するセロトニンの前駆体であり、脳の機能の維持や精神の安定に役立つことがわかっている。食肉タンパク質のうち、ミオグロビンはヘム鉄を含む色素タンパク質であり、筋肉中で酵素を貯蔵する役割を有している。カルニチンは、リシンとメチオニンから合成されるアミノ酸の一種であり、食肉の中では牛モモ肉に多く含まれている。カルニチンはエネルギー生産のため脂肪酸ミトコンドリア内に輸送する役割を有している。

カルノシンおよびアンセリンの生体調節機能】

食肉タンパク質が分解されて生じるペプチドには、生体機能調整機能があることがわかってきている。また、アンセリンカルノシンのように筋肉に豊富に存在する機能性ペプチドもある。

カルノシンは、β-アラニンとヒスチジンが結合したジペプチドである。そして、カルノシンを構成するヒスチジンがメチル化されたジペプチドがアンセリンである。これらは動物の種類やその部位によって含量がことなっている。

カルノシンアンセリンには、抗酸化作用、緩衝作用、抗疲労効果があると報告されている。抗酸化作用には、好中球が作る次亜塩素酸ラジカルによるタンパク質の酸化分解を抑制することが明らかにされている。また、緩衝作用は、運動時に筋肉中で生成する乳酸によるpH低下を抑制し、運動能力の向上に寄与すると考えられている。さらに、近年ではカルノシンが少量では交感神経を抑制し、血糖や血圧を低下する効果があることも報告されている。

【食肉タンパク質由来ペプチドの生体調整機能】

1)血中コレステロール低下作用

豚肉タンパク質由来のペプチドにはコレステロール低下の作用があることが明らかにされている。ペプチドのコレステロール低下作用は、腸管からの胆汁酸の排泄促進によるものであると推察されている。

2)中性脂肪上昇抑制作用

ヘモグロビンから調製されたグロビンペプチドが、食後の中性脂肪上昇抑制作用を有することが明らかにされている。健康人ならびに半健康人が、食事で脂肪を摂取する際にグロビン分解物を同時に摂取すると、食後の血清トリグロセリド値がコントロール群に比べて有意に低下したとされている。また、この分解物を連続摂取することによって体脂肪が低減化される効果も認められている。

3)血圧上昇抑制作用

鶏胸肉の熱水抽出物を微生物プロテアーゼで分解したものを高血圧自然発症ラット(SHR)に投与すると、血圧上昇を有意に抑制することが明らかにされている。さらに、豚モモ肉ミオシンのサーモリシン加水分解物をSHRに経口投与した場合にも、血圧の上昇を有意に抑制することが報告されている。

4)抗酸化作用

近年、筋肉に多く含まれるカルノシンだけでなく、筋肉タンパク質をパパインやアクチナーゼで分解したペプチド画分に抗酸化作用が認められている。この画分に含まれるペプチドは、金属キレート作用とラジカル捕捉作用により抗酸化作用を発現すると推察されている。

5)カルシウム沈殿抑制作用による骨粗鬆症改善効果

ブタ心筋より抽出した粗タンパク質を卵巣摘出した骨粗鬆症モデルラットに30日間投与した結果、カルシウムの吸収率低下が改善されると同時に、大腿骨および頸骨の骨重量が非投与群にくらべ有意に高い値を示した。また、大腿骨、頸骨中の灰分量およびカルシウム量は非投与群にくらべ投与群で高い傾向を示し、骨粗鬆症による骨の無機成分の減少が改善されたと推察された。さらに、骨粗鬆症で低下しやすいと言われている骨幹部の海綿骨の骨密度も投与群で有意に高い値を示した。これらの結果より、心筋タンパク質の投与は骨粗鬆症による骨密度の低下を改善する機能を有することが明らかとなった。

まとめ

近年の生活習慣病の増加に伴い、国民の健康に対する関心は極めて向上している。そんな流れを受けて、多くの畜産食品の生体調整機能が報告されているが、食肉に関する知見は十分なものとは言えなかった。しかし近年、食肉に関する研究も多く行われており、その生体調整機能が明らかになりつつある。

本論文では、そんな食肉タンパク質の特徴ならびにその生体調整機能に関する知見がまとめられている。

過度の食肉の摂取は生活習慣病の原因となってしまうが、適量の食肉タンパク質を摂取することは我々の健康維持に非常に重要な役割を果たしていることが本論文によって改めて示唆されている。